第43回:「基本給が上がると何が増える?」連動費用の全体図

杉山愛が差し棒を持って、「楽しい人件費」というタイトルを指しています

1万円の昇給は、1万円のコスト増ではない?

「今度の改定で基本給を1万円上げることになったから、その予算を確保しておいて」と言われたとき、あなたならどう考えますか?

実は、基本給(固定的なお給料)の変動は、他の項目に対しても「レバレッジ」のように作用します。 レバレッジとは「てこ」のこと。小さな動きが大きな変化を生む仕組みを指します。

人件費の実務では、基本給を1%上げると、最終的な会社の負担額はそれ以上に膨らむんです。 「1万円の昇給は、会社にとって1.2万円以上の固定費増になる」という視点が持てると、もうプロの入り口ですよ。

🔍 割増賃金に火をつける「算定基礎」の範囲

皆さんの会社では、残業代の計算にどの手当を含めるか、正しく区別できていますか?

基本給が上がると、連動して「割増賃金(時間外・休日労働手当)」の単価も上がります。 ここで重要なのが「算定基礎賃金(さんていきそちんぎん)」という考え方です。 これは残業代を計算する「元になる金額」のことで、基本給は当然含まれます。基本給が上がれば、残業や休日出勤をするたびに追加で発生するコストも以前より重くなる、というわけですね。

🎁 意外と見落としがちな「賞与」へのインパクト

皆さんの会社の賞与は、どのような計算式で決まっていますか?

日本の多くの企業では、賞与を「基本給 × ◯ヶ月分」というロジックで算出しています。 もし賞与が「年間4ヶ月分」支給される会社なら、基本給を1万円上げると、賞与も自動的に年間で4万円増えることになります。 つまり、毎月の給与増(1万円×12ヶ月=12万円)と合わせると、額面だけで年間16万円のインパクトです。

「基本給を変える」ということは、年に数回のビッグイベントである賞与の予算まで書き換えるということ。 経営陣にシミュレーションを出すときは、この「賞与への跳ね返り」を忘れないようにしたいですね。

💸 【ダメ押し】賞与増に伴う「法定福利費」の膨張

賞与の金額が増えるということは、その賞与にかかる「法定福利費」も増えるということ、気づいていましたか?

法定福利費(ほうていふくりひ)とは、法律によって会社が負担することが義務付けられている社会保険料などのことです。 賞与からは、社員本人の健康保険料や厚生年金保険料が引かれますが、会社もそれと同額(あるいはそれ以上)を支払っています。

基本給アップによって賞与が1万円増えれば、会社はさらに約1,500円(社会保険料率を約15%とした場合)の保険料を余分に支払うことになります。 「基本給増 → 賞与増 → 会社負担の保険料増」という連鎖的なコストアップこそが、人件費管理の恐ろしい、そして面白いところなのです。

🛡️ 社会保険料と「二重のコスト増」の仕組み

給与が上がった数ヶ月後に、「なんだか手取りが思ったより増えていないな」と感じたことはありませんか?

これは「随時改定(ずいじかいてい)」という仕組みが関係しています。 固定的賃金が変動し、一定の条件(2等級以上の差など)を満たすと、年度の途中でも社会保険料が見直されるんです。

さらに見逃せないのが、労働保険(雇用保険・労災保険)の仕組みです。 労働保険は、標準報酬ではなく、その月に支払った「賃金総額」に料率をかけて計算します。 「基本給が上がる」→「残業代や賞与が増える」→「賃金総額が増える」→「労働保険料が増える」……。 これが、基本給改定が引き起こす「二重のコスト増」の正体なんです。

令和8年度からは、新しく「子ども・子育て支援金」という負担も始まります。 これは今の「拠出金」とは違い、労使で折半して負担する新しい制度です。 人件費を管理する私たちは、こうした未来の数字も先回りして把握しておきたいですね。

難しい局面もありますが、数字の連鎖がわかると、会社のお金の動きがもっとクリアに見えてきますよ。 わたしと一緒に、一歩ずつ「頼られる担当者」を目指していきましょう。

まとめ

基本給1万円アップは、1万円のコスト増ではない
残業代・賞与・社会保険料・労働保険料まで連動して増加する
基本給の引上げは、毎月の給与増だけでなく、割増賃金の単価上昇、賞与額の増加、さらに各種保険料の増加まで波及します。結果として、会社負担は昇給額以上に膨らみます。
賞与が「基本給×支給月数」で決まる会社では、基本給の改定が賞与予算にも直結します。さらに、賞与増に伴って会社負担の社会保険料も増加します。
そのうえ、随時改定による社会保険料の見直しや、賃金総額の増加に伴う労働保険料の上昇も発生します。
昇給額ではなく、残業代・賞与・法定福利費を含めた総人件費で判断することが重要です。

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