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第5回 条文から読み解く「原則と例外」の見分け方

こんにちは!杉玉 愛(すぎたま・あい)です。「法学部出身じゃない人のための、やさしい労働法教室」、第5回目のテーマは、「原則と例外」の見分け方です。
労働法の条文って、まず「こうするのが基本ですよ」っていう原則があって、そのあとに「でも、こういうときは別ですよ」という例外がくっついてくることが多いんです。その例外の部分は、条文の中に「ただし」とか「なお」とか、「前項にかかわらず」みたいな言い回しで登場します。
今回は、代表的な条文をいくつか見ながら、原則と例外がどうやって書かれているのか、実際の条文を使って、いっしょに読み解いていきましょうね。

労働基準法の例:解雇予告の原則と例外

条文の概要: 労働基準法第20条は、使用者(会社側)が労働者を解雇する際の予告義務を定めています。まず原則として「30日以上前の解雇予告」または「30日分以上の解雇予告手当の支払い」を義務づけ、続けて「ただし書き」で例外条件を示しています。

労働基準法第20条(解雇の予告)
使用者は、労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない

原則(本文部分): 解雇する際は少なくとも30日前に予告する必要があります。もし30日前までに予告しない場合は、代わりに30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。これは労働者にいきなり職を失わせないための保護策で、予告期間か手当によって猶予や補償を与えるものです。

例外(但し書き部分): 上記の原則に対し「ただし」以下で例外が定められています。天災など不可抗力で事業継続が不可能な場合や、労働者に重大な落ち度がある場合には、30日分の予告や手当を省略して即時解雇が可能とされています。ただしこの例外を適用するには行政官庁(労働基準監督署長)の認定を受ける必要があります。つまり、非常に特殊な事情に限って、会社は予告なしで解雇できるという例外が認められているのです。

こうした但し書きによって、通常は予告が必要(原則)だが特定の場合には免除される(例外)ことが明示され、条文中で原則と例外がはっきり区別されています。

労働契約法の例:就業規則による労働条件変更の原則と例外

条文の概要: 労働契約法第9条・第10条は、就業規則の変更によって労働条件を変更する場合のルールを定めています。原則としては第9条で「労働者の同意なく不利益変更はできない」ことを規定し、その直後に「ただし」で第10条の場合を例外としています。

労働契約法第9条
使用者は、労働者と合意することなく就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

原則: 会社は労働者の同意なしに就業規則の改定によって一方的に労働条件(賃金・労働時間など)を悪化させることはできません

例えば「会社が勝手に就業規則を変えて給料を下げる」ようなことは原則として許されないということです。これは労働者保護のため、労働条件は労使対等の合意で決めるという基本原則に沿った規定です。

例外: ただし書きにより「次条の場合はこの限りでない」とされています。第10条がその「次条」で、そこでは就業規則の合理的な変更であれば労働契約上も有効になる旨が定められています。具体的には、変更後の就業規則を周知した上で、変更内容が労働者にとっての不利益の程度や必要性を考慮して合理的と認められる場合には、労働者個々の同意がなくても新しい就業規則の条件が労働契約に適用されます。つまり、「変更が合理的なら例外的に一方的変更が有効」ということです。


このように第9条本文で原則を示し、ただし書きで「第10条という例外条件あり」と繋げることで、原則と例外の関係を読み取りやすくしています。条文上は「…できない。ただし、…場合はこの限りでない」という形で、例外が明確に区別されています。

男女雇用機会均等法の例:妊娠・出産による解雇制限の原則と例外

条文の概要: 男女雇用機会均等法第9条は、女性労働者の婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを禁じています。特に第4項では「妊娠中および産後1年以内の解雇は無効」とする強い原則が定められ、その後に「ただし」で例外的な条件を付しています。

男女雇用機会均等法第9条第4項
妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とするただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない

原則: 妊娠中または産後1年以内の女性労働者を解雇した場合、その解雇は法律上無効とされます。つまり、その期間に女性を解雇すると、たとえ会社が解雇を通告しても解雇自体が成立しないという、労働者側を強く保護する規定です。この原則によって、妊娠・出産を理由とした解雇は厳しく禁止されています。

例外: ただし書きでは、「前項に規定する事由」(=妊娠や出産等)による解雇ではないことを使用者が証明した場合にはこの限りでない、としています。これは、会社側が解雇理由が妊娠・出産と無関係であることを立証できれば、解雇が有効となりうることを意味します。例えば、妊娠中の女性社員が重大な規律違反を犯し、そのことを理由に解雇する場合など、解雇理由が妊娠とは無関係で正当であると会社が証明できるケースが例外として想定されています。ただし実務上は、会社に立証責任があるためハードルは高く、安易にこの例外が認められるわけではありません。

このように「妊娠中・産後直後の解雇は無効」という原則を示した上で、「ただし…証明したときはこの限りでない」と例外を設けることで、万一正当な理由がある場合の救済も規定しています。条文中の「…無効とする。ただし、…この限りでない」という構造で、原則と例外が明確に区別されています。

労働安全衛生法の例:安全衛生教育の原則と例外

条文の概要: 労働安全衛生法第59条は、新たに労働者を雇い入れたときや労働者の作業が変わったときに、事業者(使用者)が安全衛生に関する教育を行う義務を定めています。条文上は細かな規定がありますが、その趣旨は原則として「必要な安全衛生教育を必ず実施すること」です。ただし、一定の場合にはその教育の一部を例外的に省略することが認められています。

原則: 事業者は労働者を雇った際に、その労働者に対し従事する業務に必要な安全または衛生のための教育を行わねばなりません。たとえば新入社員に対して、作業上の危険や安全対策についてきちんと研修するのは法律上の義務です。また、配置転換などで新しい作業につく場合にも同様です。

例外: 「ただし」一定の場合には教育を省略できる旨が定められています。例えば、既に十分な知識・技能を有している労働者や必要な特別教育・資格を修了している労働者については、重複する内容の教育を省略することが認められています。実際の条文では細かい要件が列挙されていますが、平たく言えば「経験者や有資格者には例外的に教育を免除できる」ということです。また、事務職のように当該安全教育の項目と無関係な業務しか行わない場合にも、その該当項目の教育を省略できるとされています。

以上のように、労働安全衛生法でも原則として全員に教育を実施させ(労働者の安全確保)例外的に不要な重複教育は省略を許容するという形で原則と例外が条文上区別されています。条文中の「…省略することができる。」という文言が例外措置であり、前段の義務規定(…しなければならない)との対比で理解できます。

まとめ

いかがでしたか?今回は、いくつかの労働法の条文を例にしながら、「原則」と「例外」の読みわけ方を見てきました。
条文の中に出てくる「ただし」「この限りでない」「〜にかかわらず」っていうキーワードは、原則とは違うルールがあるよっていうサインなんです。
法律を読むときは、「まず基本のルールはどれかな?」って考えてから、「それに対する特別なパターンは?」って探していくと、ずっと分かりやすくなりますよ。


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